これまでの臨床実習の様々な課題から、本学救急?災害医学分野では、早くからVR教材の開発に着手していました。このほどコロナ禍での実習不全から学生教育に生かすことも考え、学生も参加した臨床実習用のVR教材開発を進めており、本年1月から救命救急の臨床実習の補助教材として導入されています。この開発を進めている救急?災害医学分野の織田順主任教授と、開発に参加している医学科の学生に話を聞きました。
【Contens 188bet体育_188bet亚洲体育-在线*投注】 救急?災害医学分野 織田順 主任教授インタビュー▼ | 開発会議の様子▼ | 開発に参加している学生の声▼
受動的な見学型臨床実習を、「能動的」で「双方向」な学びへ(救急?災害医学分野 織田順 主任教授)
救命救急でのVR教材開発のきっかけ、従来の臨床実習の課題などを教えてください。
これまで、救急初療室(ER)では、上級医、研修医、看護師、臨床工学技士、放射線技師など多職種のチームで処置が行われ、それぞれが常に動いている中、初学者は「体で覚えるしかない」、研修医は「ぶっつけ本番になってしまう」、学生は「邪魔にならないようにで精一杯」といった状況でした。これに加え、コロナ禍での感染対策の為、学生が実習不全に陥っているのが現状です。本学でも、臨床実習の日程が短縮され、対面での実習機会が減っています。そこで今回、より効果的な臨床実習を実現するため、VR教材の開発に至りました。
実は、2~3年前から映像を撮り溜め、試行錯誤していましたが、コロナ禍で救命救急の臨床実習自体ができなくなり「臨床実習をせずに医師になってしまうのが不安」という学生の声を聞き、なんとか現場を見せてやりたいと思ったことが、原動力となりました。急いでやらねばとなり、大学側の資金補助(*)を得て、この2~3か月のうちに一気にプロジェクトが進みました。
*学長裁量経費:本学では、医学部学生や大学院生に対する医学教育の改善や改革、研究の推進や発展など、教育?研究活動の一層の活性化を目的として、『学長裁量経費』を設けています 。この学長裁量経費は、学長のリーダシップのもと、学内公募により優れたプロジェクトを選定し、経費配分するものです。
本学のVR教材の特徴を教えてください。
まず、実際のERでの処置を360度カメラで撮影したリアルな映像がソースとなっています。その映像に、必要な解説や画像などを加えたコンテンツを、VRヘッドセットをはじめ、タブレットやパソコン画面で見ることができるようになっています。
コンテンツは学内で自作しているため開発コストが抑えられ、扱いたい症例を自由に作ることができ、やりながら作っていける点に価値があります。これまでも開発会議で出た学生の声を取り入れ、既に何度もコンテンツをアップデートしてきており、このスピーディーさが自作の強みです。
また、実際に12月の中旬に大学病院で新型コロナの重症患者を受け入れており、COVID-19の救急対応に関するコンテンツを作ることが可能になっています。このような希少な事例をはじめ「新宿にある大学病院」ならではのコンテンツを作りたいと考えています。さらに、自作のメリットとして、症例だけでなくチーム医療がうまくいったケースを取り扱うこともできます。間合いや、誰にどのような指示を出すのか、声掛けの仕方など、臨場感とともに多職種連携におけるチームワークを学ぶことができるコンテンツを作れることも特徴です。
これまでの実習は見学型で、教員側も学生が何を見て何を考えているのが分からずもったいないものでした。しかしVRコンテンツでは、単なる対面授業の代替ではなく、臨床実習で見学するシーンを学生が能動的に見て、そこから主体的に学ぶことができます。また、ミラーリング(VRヘッドセットで見ている映像を、プロジェクタを通して画面に映し出せる)を使うことで学生がどこを見ているか、教員側が把握することができるため、単にヘッドセットになっただけでなく、相互に学習効率を上げていくものになると思っています。
学生が開発過程に参加することになった経緯や、学生の声を反映した点を教えてください。
VRデバイスとなり、使用感や理解の深まる教材にするためには、VR酔い対策も含め、当初は医局員、研修医に試してもらっていましたが、一番実習ができていないのは学生なので、学生教育にも活かすことにしました。医師相手とはおそらくニーズがかなり違うため、学生たちに見て意見をもらうしかない、というのが始まりです。当初、5年生と開発会議を行っていましたが、他の学年でも興味をもつ学生がいるということで、意欲のある学生が集まり、定期的に開発会議を開催することになりました。
まず最初に、VRを体験した学生の「VR教材を見る前に、先にどのような工程で行うのか、解説を読んでから見た方が理解が進むのでは?」という声から、事前学習資料「学習の手引き」を作成することになりました。
また、VRヘッドセットをつけVR酔いした学生からの「移動する映像が苦手」という声から、救急車到着からベッドに移動するまでの映像をカットしたり、そもそもVR酔いしないように、VRヘッドセットだけでなく、タブレットやパソコンの画面でも同様のVR映像が見られるようにしたりしました。さらに「解説の文字が多いと文字酔いする」「見る角度によって解説が見られない」「音声の方がどこを見ていてもわかる」といった声から、解説を音声で入れるなど、VR酔い対策の強化につながっています。
授業への導入時期と今後の展望を教えてください。
現在「けいれん重積発作」の1ケースが完成しており、2021年1月から救命の臨床実習の補助教材として導入しています。ソースはすでに患者さんのご協力を得て、50ケース以上(全身管理が必要な「心不全」「脳卒中」「小児」など)あり、引き続きどのように見せるかを学生とともに工夫していこうと思っています。
また、今後の展望として、「多職種での活用」と「他大学との連携」が期待できます。この教材は、360度カメラで撮影した多職種のチームで行われる救命救急の処置映像のため、医学科の学生や研修医、専門医になりたい人だけでなく、看護師や看護学科の学生まで、一つのコンテンツを多職種で活用することができます。それだけでなく、大学によって地域性に応じた特色ある医療をコンテンツとして作ることができるため、他大学と連携し、大学間でそのコンテンツを共有できれば、より多くの事例を体験できることになります。現在、興味を持った大学と連携の話も進んでおり、今後の展開が楽しみです。
学生が参加している「VR教材開発会議」を取材しました!(広報?社会連携推進課スタッフ)
12月10日に開催された開発会議には、織田先生のほか、5年生3名、2年生2名の学生が参加し、さらにERのスタッフ(後期研修医)も2名駆けつけました。
まずは織田先生から、映像の作り方や機材の説明がなされ、学生に具体的にやってほしいこととして、VR教材の補助教材として、映像から何をどう学べばいいのかをまとめた事前学習資料「学習の手引き」の作成の手順について説明がありました。それをベースに「学生が研修医の動きができるようになるためにはどういう教材を作ればいいのか」について、ERスタッフを含めディスカッションしていました。
その後、実際に学生がVRヘッドセットを装着したり、同じくVR映像が見られるタブレットやPCで画面を見たりしながら、あちこちで活発な意見交換がされていました。
参加している学生に、参加したきっかけなどを聞いてみると、自ら参加して何でもやってみようという気概が感じられ、本学の建学の精神「自主自学」を実感することができました。
開発に参加している学生に、参加のきっかけや参加して得た学びなどを聞きました!
■医学科 第5学年の声
- 開発に参加したきっかけは?
今回の開発に参加したきっかけは、医学教育学分野の三苫博主任教授です。三苫博先生より「救急での教材研究にぜひ学生も参加してみてはいかがでしょうか」とお話があり、今回の取り組みに大変興味が湧き、織田先生にご連絡致しました。
- 参加して感じたこと、学んだこと、今後に活かしていきたいことは?
今回実際参加してみて、1から新しいものを作る難しさを非常に感じました。教材を見て、単に「わかりにくい」と言うのは簡単ですが、どこがわかりにくいのか、どうしたら学生はより理解できるのか、より学習できるのかを考えるのが非常に難しいと感じました。しかし、学生として普段あまり考えない事を考える機会に恵まれた事で、より視野が広がったと思います。188bet体育_188bet亚洲体育-在线*投注には今回のように学生が参加できる研究や活動が多いと思います。今後もこのような機会を活かして積極的に参加しようと思います。
■医学科 第5学年の声
- 開発に参加したきっかけは?
新型コロナウイルスの感染拡大下で実際の現場を見られないという状況には不安を感じており、VRというコンテンツを利用することで、実際に実習で見る以上に近くではっきりと現場の動きを見ることができる、という試みに興味を持ちました。
- 参加して感じたこと、学んだこと、今後に活かしていきたいことは?
VR教材では、実習で見学していても見ることのできない先生方の手元まではっきりと見ることができるうえ、同時並行で進む様々な手技を現場と同じように視野を変えて見渡すことができ、実習で実際に見学する以上の学びを得ることができる可能性を感じました。事前学習のポイントを絞るためには、自分たちが全体を把握できていなければならず、ただ見ているだけでは気に留めないような細かい部分にも気付くことができました。今後の学生にとってより学びになるような教材にできるよう、努めていきたいと思います。
■医学科 第5学年の声
- 開発に参加したきっかけは?
今年は新型コロナウイルスの流行のため、ポリクリ(実際に病院の各診療科を回って行われる臨床実習の通称)で救急をきちんと見ることが出来なかったので、VRで見られるなら見てみたいと思ったため参加しました。
- 参加して感じたこと、学んだこと、今後に活かしていきたいことは?
実際に見学をしているかのような臨場感のあるVR映像だったので、感動しました。実習で救急を回る時は、遠くから背中を見守ることしか出来ないことも多いと思いますが、VRではかなり近くから手技を見ることが出来るので、どのような手技を行っているのかが分かりやすく、今回の試作では、けいれん重積発作の際の対応を学ぶことができました。今後、研修医として救急科を回る際に今回学んだことを生かせるようにしたいと思いました。
■医学科 第2学年の声
- 開発に参加したきっかけは?
VRに興味があったことと、それを用いる最先端の授業をいち早く体験できることに興味を持ったからです。
- 参加して感じたこと、学んだこと、今後に活かしていきたいことは?
VRだからこそわかる広い視野を持つ力や、何度も手術の工程を確認できる現代ならではの授業法はこれから救急以外にも活用できると感じました。まだ勉強が足りず手技的になにを行っているかはそれほど理解できませんが、学年に甘んじず理解できるよう勉強していこうと思いました。
■医学科 第2学年の声
- 開発に参加したきっかけは?
DOCS(*)の連絡網でVR教材開発研究への参加募集についてのお知らせが流れてきたことがきっかけでした。前々からVRに興味はあったのですが、あまり手を出す機会がなかったため、良い機会だと思い、参加いたしました。
- 参加して感じたこと、学んだこと、今後に活かしていきたいことは?
VR教材を通して、まるで自分が現場に立っているかのような臨場感が味わえました。さらに、画面上で解説がつくことにより、漠然と見るだけではなく、実際にどのような動きをしているのかをじっくり観察することができました。二年生なので、臨床についての専門的な講義はまだ受けていませんが、VR教材を通じて具体的なイメージを掴むことで、将来の学びに活かせるのではないかと思います。
*:DOCS(Development of Clinical Skills):臨床の現場で生きる知識や手技、コミュニケーションの取り方を学ぼうと立ち上げた団体です。より実践的な医学を身につけるべく、学生向けの勉強会を定期的に行っています。
このニュースに関するお問い合わせ
188bet体育_188bet亚洲体育-在线*投注総務部 広報?社会連携推進課 03-3351-6141(代表)