はじめに、感染症実践コースの流れを教えてください。
感染症実践コースでは、全6回の全ての授業で学生6~7人が1グループとなり、それぞれのグループを全診療科から集まった医師がチューターとして担当しました。一般的にチュートリアルはグループに分かれて実施するため、グループ毎に議論の内容や到達点に差異が出やすいのですが、本コースでは感染症専門医がコースディレクターとして全体の統括を行い、その差異が小さくなるようにコントロールしました。
「診断編」ではどのようなことを学ぶのですか?
コース前半の「診断編」では、模擬患者に対する医療面接を行い、感染症患者への問診、診断、必要な検査と適切な感染予防策を学びました。
具体的に第1回、第2回のコースで、まず学生一人が模擬患者との医療面接を行い、他の学生は自分だったらどうするか、どうするとより良いか、何を想定すべきかなどを考えながら観察し、医療面接終了後にチューターのファシリテーションのもと、グループでディスカッションを行いました。これを踏まえ1回目の医療面接では出来なかったことを修正し、2回目の医療面接を実施しました。2回目の医療面接後、再度グループでディスカッションを行い、考えられる鑑別診断や必要な検査、追加で行うべき問診事項、必要な感染予防策についてまとめてもらいました。
医療面接の医師役は、学生が全員体験できるのですか?
1グループあたり4人の学生が医師役をやりました。
第1回の医療面接では、1回目はAさんが医師役をやり、残りの学生がこれを観察?ディスカッションして、その議論を踏まえて2回目はBさんが医師役をやり、第2回では、1回目はCさんが、2回目はDさんが医師役をやりました。
残りの学生は、グループ発表担当(第1回:Eさん、第2回:Fさん)、グループディスカッション書記担当(第1回:Gさん、第2回:Hさん)というように、6~7人の学生が、全員何らかの役割を担当するようにし、主体的に参加する意識付けを行いました。
医療面接の模擬患者役は誰がやるのでしょうか?
模擬患者役は、チューターとして参画した医師が担当しました。模擬患者として専門の人員を模擬患者の会などから派遣してもらうこともありますが、今回はコロナ禍だったこともあり、学内で人員調整をしました。
第1回と第2回の医療面接の違いは何ですか?
第1回の医療面接では、COVID-19疑いの発熱患者の診断を行い、第2回は、第1回とは異なる原因(血流感染症)の発熱患者であることをあえて伝えず、実際には疾患が違う設定にし、それらも含めて考察してもらいました。
「対処法編」での学びはどのようなものですか?
コース後半の「対処法編」では、第3回でアルコールによる手指衛生?石鹸と流水を使用した手洗い、第4回で個人防護具の着脱を習得しました。これも同様に6~7人のグループに分かれ、チューターが臨床で行われているノウハウを含めて実際的な手技を教えました。学生にはあらかじめ準備されたワークシートに確認すべき知識や留意点を学生間のディスカッションを通じてまとめてもらいました。この際に、チューターが過度に干渉するのではなく、各学生の気づきを大切にし、学生同士が相互に学習をし合うスタイルとしました。
第5回では、シミュレーターを使用した静脈血採血やCOVID-19患者にも使用する鼻腔スワブを使用した鼻咽頭検体の採取を行い、第6回では、薬剤耐性菌が検出されている症例を想定し、実際に感染予防策に留意し診察を実施するシミュレーションを実施しました。この回でも同様に、学生はあらかじめ準備されたワークシートに確認すべき知識や留意点をまとめました。
なお、このコース内で習得した臨床推論や診断、手技や感染予防策は、卒業時OSCE(客観的臨床能力試験)の課題に組み込み、到達度確認を行いました。
「対処法編」で出てくるワークシートとはどのようなものですか?
下の画像をご覧ください。症例の設定を提示後、学生が実際にやってみる、確認すべき知識や留意点を学生間でディスカッションする、ワークシートに記入する、チューターが答えを解説する、これを提出してもらい成績として評価する、という流れで活用しました。
*ワークシート詳細はこちら(第3?4回、第5?6回)>>
「薬剤耐性菌」が検出されている場合、感染予防策にどのような違いが出るのでしょうか?
標準予防策から接触予防策へとグレードアップします。簡単に言うと、使用する個人防護具の充実度が異なるのと、感染予防策が対象となる範囲が拡大します。この思考を習得できたのか、学生アンケートには、「標準予防策と接触予防策の差が理解てきた」と記載する学生が多く見られました。言葉の違い以上に、現場では実行する感染予防策が異なります。
改めて、感染症実践コースの特徴を教えてください。
大きく、次の4つの特徴があります。
1. 学生が考え相互に気づき与え合うことへの誘導
本コースでは、教員から学生への一方向性の教育ではなく、むしろ学生が自ら取り組み、それを他の学生が観察し、その後にディスカッションを行い、再度シミュレーションを実行するという学生同士の共鳴をコースの狙いとしています。学生個人では思いもつかないことを、他の学生と思考を共有することで、新たな気づきが生まれました。この他の学生との思考の共有により習得した知識や感性は、その後の行動変容にプラスの効果をもたらすと考えられます。
2. 既存の感染対策シミュレーションコース“Infection Control Training Course”を参考としたコース構築
本学では、元来、医師の卒後の生涯教育として、教育部生涯教育センターが主体となり感染対策シミュレーションコース“Infection Control Training Course: ICTC”を運営し、2012年から現在までで合計180回超の開催実績があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30253903/)
今回の感染症実践コースは、この医療者用のICTCを参考として、医学部の教育に導入したため、大まかなコースのフレームとコンテンツが既に出来上がっており、その要素をそのまま医学部教育に外挿できた点が特徴的です。
3. 感染症指導医によるコースディレクション
通常、チュートリアル授業は、チューターがスモールグループディスカッションを統括し各グループで完結しますが、今回の実践コースでは感染症指導医がコース全体のディレクターとなり全授業をその場で統括し、グループ毎に異なる視点や気づきが出た際に、それを全体で共有しました。理解が間違った方向に向かった際に引き戻す役割を果たし、また授業の最後に総括として他の学生にも共有すべき事項のまとめや注意点の解説を追加している点が特徴的です。これによりグループ内での気づきを生かしつつ、グループ間の到達の差が大きくならないようにコントロールすることができました。
4. 診療科から医師総勢57名がチューターとして参加
本コースは、感染症指導医がコース全体をオーガナイズした上で、30科に及ぶ診療科から医師を動員し、総勢57名がチューターとして参加している点が特徴的です。これにより各医師による実臨床のノウハウやコツを、直接学生に伝えることが可能でした。また違う視点としては、医師の生涯教育にも役立つ内容であり、教員側も感染症の臨床推論や検査、手技や感染対策を再確認できる副次的効果も観察されました。
最後に、本コースを導入してみて気付いたことや、学生の手応え、次年度に向けて改善していきたいことなどを教えてください。
感染症実践コースは、コロナ禍が後押しとなり、急ピッチで準備し実施しましたが、結果は大成功だったと感じています。
学生同士が議論をする中で、「なるほど、そういう考えもあるよね。」「それ自分じゃ、気づかなかった。確かに」といった気づきを口にする瞬間があり、これは自分だけで勉強していては習得できない印象深い収穫になるだろうと思います。
実際に個人防護具を着脱する順番だけでも、「いや、そっちが先じゃない」「前の授業ではこっちだったんじゃないか」「そっか、ありがとう」といった自然なやり取りが、いざ臨床現場に出て迷ったときの手助けになるのではないでしょうか。医師国家試験に向けて知識を詰め込む形での勉強は嫌というほどやりますが、実技で、しかも同級生同士で手技を習得していく時間はとても貴重なものとなると確信しています。
チューターからも、「自分が学生の時には教えて貰えなかったことが、今の学生には準備されて羨ましい」「自分も勉強になった」などの声が聞かれました。
時間配分などを調整すれば、もう少し込み入った症例シミュレーションや手技が体験できそうです。こんなにも多くの医師を臨床現場から動員できる188bet体育_188bet亚洲体育-在线*投注の強みを生かして、より教育的で実践的な感染症コースを構築できればと思います。
中村先生ありがとうございました。最後に、学生のコメントと、チューターとして参画した医師のコメントを紹介します。